No.3 深樹谷


そろり、と手を伸ばす先、触れるその感覚に思わず口元が綻んだ。

たかが隣にいる、それだけだと言うのにどうしてこんなにも満たされるのだろう。

闇に溶けそうな深い深い色の髪。
起きているときの彼からは想像出来ないほどあどけない寝顔。

全て、ある。
この手を伸ばすことができる、この距離に全て。


それに堪らない幸福を覚えるようになったのはいつからだろう?
刹那の時が堪らなく心地好くなったのはいつからだろう?
永遠であるようにと願うようになったのはいつからだろう?


嗚呼、以前の自分ならこんな事なんてなかったろうに。


 (他人(ヒト)の体温に安心するなどと)


起きないのを良いことに、彼の頬にそっと触れる。

「……自覚、ないんでしょうね」


 (貴方がどれだけ私を変えたのかも
  貴方がどれほど私を乱しているのかも)


そうして、ぽつりと呟いた。
彼はまだ、目覚めない。

「…知らなくて、いいですよ」


 (私がどれほど貴方を想っているのかも
  私がどれほど貴方を愛しているのかも)


本当に起きない。
疲れていたのだろうか?それとも…

「…ちょっと抓ってみましょうか」

あまりにもぐっすり眠っているので少し悪戯心が沸いた。
流石に何か嫌な予感がしたのだろうか、彼が身じろぐ。

それが少し可笑しくてまた口元が綻んだ。





 (掻き乱されることも
  想う事も 想われる事も
   全部が厭わしかったのに)











     ―――――――――刹那と永遠とそれから









 (それを心地好いと思っているんですから!)