No.5 きげこ/海龍神 (8/8)
(きげこ)
レイナスはハントの「ごふっ!」という悲鳴を聞き流してヴァイスを抱き止めた。既に二人の意識の中では小汚い髭じじいはいないものとして認識されているようだ。
しかし彼にも救いはあったようで、ずっとヴァイスの隣で勝負を見ていたラナが、ハントに駆け寄って甲斐甲斐しく彼を抱き起こしたのだ。小汚いと称されたハントとラナではまるで不釣合いだったが、どうやら愛はそんなこと欠片も気にしないようだ。
「レイナスさん…」
「どうしたの?ヴァイス」
レイナスがヴァイスの表情を隠している彼の前髪をかき上げる。
潤んだ蒼い瞳が姿を現した。
「泣いてるじゃないか?」
「ええ…実はね、ある人と喧嘩してしまったんです」
「そう。そいつはついさっきまで自分のことを馬鹿だって思ってたと思うよ」
「どうしてですか?」
「そいつはろくにヴァイスの話を聞かなかったんじゃない?」
「それもあります…。でも、私も悪いんです」
「どうして?」
「ちゃんと最初に正直に言わなかったんです…」
「そう…。でも、もう気にしてないと思うよ」
「本当ですか?」
「うん。だって、そいつは好きだっていう叫びをヴァイスに聞いてもらえたんだから」
「………」
「そうしたら…こうやって飛びついてきてくれたから……」
きゅっと抱き締めてくれるレイナスの腕が強くなった。
「レイナスさん……」
ヴァイスはレイナスの胸に顔を押し付けて強く強く抱き締めた。
「レイナスさん…私はあなたの傍を離れません。…好きです」
一方、ハントはそんなラブラブパカップル全開の二人を遠い目で見つめながら、ヴァイスが自分をああして強く抱き締めてくれることを想像できないでいた。
「……やれやれ」
ふ、と呟いた表情には一抹の悲哀があったが、ハントはそっと抱きかかえてくれるラナの温かさを感じていた。